極めて短い短編ゲームブックです。妹とかくれんぼをする兄のお話。ふと思い付いて書きました。
注 ホラー要素はありません。ただ、オチは寛大な心で許容して下さい。
(※この作品は『小説家になろう』で掲載されていた原作を作者である蛍蛍様のご了承を頂き、画像とリンクをつけて転載させて頂いたものです)

【スタート】

妹が見付からない。
妹は昔からちっこくて、どこでも隠れるのが得意な奴だ。かくれんぼの達人である。
そんな妹とかくれんぼをすること自体が間違いなのだが、あいつは見つかるまで意地でも出てこない。
子供の頃に公園でのかくれんぼにてなかなか発見出来ず、もう帰っているだろうと一人で帰宅したところ夜中になっても帰ってこなくて大騒ぎになったこともあった。
つまりは、見付けないとなぜか俺が怒られる。

「めんどくせぇ、どこ行ったんだあいつは」

かくれんぼをしよう、お兄ちゃん!と、とてもいい笑顔で誘ってきたのは30分前。この歳になってかくれんぼなど御免だったが、妹がやるといえば一人でも隠れ続けるだろう。

「めんどくせぇ」

再度繰り返す。
あの笑顔は絶好の隠れスポットを見付けたに違いない。相当難儀するぞ、これは。
まあ、いざとなれば彼女の携帯を鳴らしてしまえばいい。ルール違反だが、親に怒られるよりは妹様の顰蹙を買う方が安上がりだ。
そもそもあいつは『普通に考えては到底辿り着けないような場所に潜むのが大好き病』なのだ。水路の土管、自動販売機の裏、入れるところならどこでも入る。動物園のライオン檻の中にいた時は吹いた。
そして出てこれないわけだ。アホである。

「しゃーない、探すか」

タイムリミットの夕食までは1時間ほどしかない。見付からなければ、容赦なく電話をしよう。
さて。まずはどこを探すかな。

一階を探す場合は18へ
二階を探す場合は4へ

【2】

近所の神社にやってきた。
神社といえば長い石階段が定番だが、ここは県道と同じ標高に建設されているので参拝がお手軽だ。
駐車場に自転車を停め、鍵を確認。境内に駆け込む。

「ちわっす、妹見ませんでしたか?」

「こんにちは、久々だねー。今日は見てないよ」

箒がけする顔見知りのバイト巫女さんと挨拶しつつ境内を捜索する。

「せっかく来たんならお賽銭入れてってよ」

巫女さんが段ボールを持ってきた。持ち運び賽銭箱とは斬新な。

「五円入れときます」

「おっ、彼女募集中?」

「巫女さん彼氏いないですし、御縁があればいいですね」

「余計なお世話よ!」

巫女さんにグーパンされた。

9へ

【3】

公園北側、テニスコートや広場が用意されている広々とした空間だ。
おおまかに見て円形に構成されている設備を、時計回りに歩く。
円錐状の小さな山に登る。雪が積もれば子供達がここでソリ遊びをするのが毎年恒例の光景だ。
妹は未だにソリを引っ張って外出することがあるが、まさかまだソリ遊びをしているのだろうか。

「小さい頃はよくアイツにゴンドラ扱いされたもんだ」

小柄とはいえ人をソリに乗せて山を登るのだ。相当きつかった。
冬場は子供の独壇場な小山だが、夏は大人もいるようだ。ラジコン飛行機を飛ばす男性が幾らかいる。
飛行機に興味を引かれつつも、残り時間がない。後ろ髪を引かれる思いで先に進む。

「久々にきたけど、こんなに小さい公園だったか?」

昔は一通り見て回るだけでも大冒険だったのに、今では散歩にしかならない。
解っている、俺が大きくなっただけだ。 先程の小山だって、昔の記憶では富士山の如く聳えていたというのに。
昔と比べれば、俺の行動範囲は大きく広がった。妹だって同じはずだ、昔の情報にすがって捜索することがそもそも間違いなのかもしれない。

「最近じゃ俺に隠れてコソコソなんかやってるしなぁ、思春期かねぇ」

かくれんぼをしたがる思春期などいて堪るか。そうぼやきつつ、俺は公園に備え付けられた時計を見上げる。

「いい時間だ、もう帰るか」

12へ

【4】

二階に登ったわけだが、さて。
ここには俺と妹の部屋、そして納戸しかない。
素直に考えれば納戸が怪しいかもしれない。しかし、妹がそんな解りやすい場所に隠れるはずがない。
だがそう思わせて、実は納戸にいるかもしれない。

「こ、混乱してきた……とにかくどこを探すか決めよう」

俺の部屋に隠れる可能性は小さかろう。となれば。

妹の部屋を探す場合は16へ
納戸を探す場合は23へ

【5】

公園の南側は北側に比べ、複雑に入り組んでいる。樹木も多く起伏も激しく、さながら公園そのものがアスレチックだ。
自転車でこの障害物が多い場所を探すのは困難。いや、昔は無理だったが今は力業で突破可能なはず、だがいい歳した男が公園内を自転車で爆走していれば不振人物この上ないのでやめておこう。
駐輪場に自転車を停め、駆け足で捜索する。

「おっ、この水飲み場!水風船とかやったなぁ」

妹は不器用なのか指の力が足りなかったのか上手く水風船を作れず、もっぱら俺が水風船製造係だった。
俺が膨らませた水風船を笑顔で俺に投げつけ破裂させるのだ。どうしようもない妹である。

「こっちの遊具は……ちっちぇー、こんなしょぼかったっけ」

記憶ではもう少し大掛かりな遊具だったはずだが、いつの間にか改修されてしまったようだ。時代は小型化ってことか。

8へ

【6】

ここに賭けよう。そう決意した俺は、洋室の捜索に移る。
テーブルの下。テレビの後ろ。カレンダーの裏。思い付く箇所を徹底的に洗う。

「いやいや、カレンダーの裏にはいないよな、普通」

妹が普通じゃ辿り着けないような場所が大好き病であろうと、『いしのなかにいる』なんてことは……たぶんない。
他に探す場所は、と視線を走らせる。目に留まったのは背を壁に密着した大きなソファーだ。
まさかこの裏に大きな穴が開いていて、中が空洞になっているのでは。そう考えた俺はソファーを壁から離して隙間を作る。
穴はなかった。ソファーの裏にあったのは、大きな落書きだ。

「あー!懐かしい、あいつと描いたんだっけ」

マジックで描かれた謎のイラストは、俺と妹が幼い頃にやらかしたものだ。勿論親は大激怒、消せなかったので仕方がなく落書きされた背面を壁に合わせて隠したのである。

「で、こりゃなんだ?」

設計図、なんだろうか?猫型ロボットのポケットに箱を乗っけたような、謎の物体だ。
俺と妹はこの先に何を見ていたのか。ただ覚えているのは、やたら嬉しそうな妹の顔だけ。
気になる。気になるも、この下手くそな落書きから正体を看破するのはほぼ不可能。

「もういいや、直接聞いてみるか」

どうせもう時間はない。俺は携帯電話を取り出した。

14へ

【7】

廊下にやってきた。
日の光が射さないからか涼しげなここは、意外と隠れる場所に乏しい。
トイレや階段下の空間を利用した収納などを片っ端から開けていくも、すぐに廊下の最奥まで到着してしまう。

「玄関か……外に出たって可能性もある、のか?」

側面の洋室に入るか、思いきって外に出るか。
ぶっちゃけ、わざわざ外出するなど面倒なことこの上ない。曲がれ右、で洋室に突撃して捜索すれば、夕食まで丁度いい時間だろう。そんな誘惑が首をもたげる。
さて、どうしようか。

洋室を探す場合は6へ
外に出る場合は24へ

【8】

「こっちの通りには駄菓子屋が……あれ、閉店したのか」

10円20円の駄菓子を子供相手に売り付けたところで、大した利益にはならないだろうしな。子供ながらにやってはいけないと薄々感付いていた店だった。我ながら嫌な子供である。
公園の砂利道を進むと、件の小池に出た。裸の子供達が水遊びをしている。
妹が混ざっていないか確認するも、さすがにいなかった。
俺も昔はここで遊んだのだろうか。小学生以上はさすがに全裸にならないので、記憶として残ってなどいない。
ただ、ここで遊んでいたことは覚えている。船の模型を浮かべたのだ。

「そうだ、あいつの為に船を作ったんだ」

風呂場で壊した船の玩具。その代わりとして、発泡スチロールで作った船を製作したのだ。
設計図まで描いてしっかりと作り上げたそれは、妹の無邪気な急降下掌によって轟沈した。戦艦大和の最期を彷彿とさせるその勇姿に、せっかく親に怒られてまで作ったのにと俺は人知れず涙したものだ。

「あれ、なんで船を作るのに親に怒られたんだっけ?」

首を傾げるも、どうにも思い出せそうにない。
そろそろタイムリミット。俺は観念して、妹の携帯電話に連絡を取ることにした。

14へ

【9】

続いてやってきたのは大きな公園。小川や小さな池もある、学校ほどの面積の土地だ。
近所の子供にとっては絶好の遊び場だ。俺と妹もよくここに来ていた。
この公園には死角が多い。妹が半端な隠れ方をしているはずがないので、高い場所から見渡そうと発見は難しいのは間違いない。
腕時計を確認。公園全域を探すのは無茶だ。
運動場の多い北側と、アスレチックの多い南側。探すとすればどちらかのみだ。

北側を探す場合は3へ
南側を探す場合は5へ

【10】

キッチンでは母さんが夕食の準備をしていた。

「さっきからバタバタと、何やってんだいアンタ?」

「かくれんぼ」

「かくれんぼ?妹と?はぁ……」

溜め息を吐かれた。俺だって付き合わされているのに。

「そろそろ誕生日だっていうのに、いつまでも子供だねアンタは」

年齢が一つ上がったからって、急に人格が変わったら恐ろしいだろ。

「もうすぐ晩飯だからね」

「りょーかい、というかこっちに来なかった?」

「見てないねぇ、音で気付かなかったかもしれないけれど」

キッチン内はそれなりに騒音がある。妹なら母さんの死角を掻い潜ってしまえるかもしれない。
収納の多いキッチンは隠れられる場所も多い。四つん這いとなり棚という棚を開いて覗きまくる。

「邪魔だよ、あんた」

母さんがスリッパの爪先で脇腹を小突いてくる。

「いたっ、やめっ、あいつが隠れていた方がよほど危なくて邪魔だろっ」

「ま、そうだね」

攻撃が止んだ。やれやれ。
その後しばし捜索するも、妹はキッチンにはいないと結論付ける。
もうそろそろスパートをかけなければ。次はどこを探すか。

和室を探す場合は15へ
洋室を探す場合は27へ

【11】

ベランダにやってきたが、洗濯物を干す棒以外には何も存在しない。ここに妹が隠れていると考えるのは無茶か。

「おーい、この家の人かーい!?」

「すいませーん!」

ん?
下の道路から、男性二人が声をかけてきた。

「なんですかー?」

男性二人は申し訳なさそうな顔で用件を告げてきた。

「……まじで?」

「すいません」

「壊れたものがあれば弁償します」

事態を理解した俺は、とにかく現場を確認する為にベランダを後にした。

14へ

【12】

丁度その時、俺の真上を飛行機が横切った。

「やばいっ、操縦出来ねぇ!」

「高かったのにぃ、って人にぶつかったら大事だ!?」

男性二人がラジコン飛行機を追い掛ける。どうやらコントロールを失って勝手に飛んでいったようだ。

「ガンバレー」

無気力に応援する。事故に繋がらなければいいが、俺にはどうしようもない。
飛行機は操縦なしとは思えぬほどに軽やかに飛んでいき、住宅地へと消えていった。俺の家の方向だな、案外近所に落ちるかもしれない。
自転車を翻し帰路を急ぐ。
妹のご機嫌取りがてら、もう少しあいつの遊ぶ場所を確認しておくか。
どうせ、これが最後なはずもないのだ。もうしばらくは妹様は俺を振り回すに違いない。

14へ

【13】

家の中に隠れている、妹は一言もそんなことを言わなかった。
洋室の外、小さな庭に足を踏み入れる。庭といえど、多少木々があるだけの何もない空間だ。
いかん、ハズレだ。これはハズレを引いた。
一応木の裏や茂みの影なども確認するが、いないものはいない。

「あほくさ。もう疲れた。さっさと電話して降参だ」

ううーん、と大きく空を仰ぎ伸びをする。
二階に何かが突っ込んだ。

「……なんだ今の」

あそこは俺の部屋だ。窓は開いていたはず。
鳥でも飛び込んだのだろうか?
室内にフンをされていないかと少しげんなりとした気分になりつつ、俺は家の中に戻ることにした。

14へ

【14】

残念ながらゲームオーバーです。適当なところまで戻って下さい。

最初からやり直す

【15】

和室に来てみた。

「ぱっと見で目につくのは裁縫道具の箱だけか」

まさかこの箱に……なわけはない。

「だが、殺風景なフリして収納が多いからな、ここ」

和室は押し入れやタンスなど、収納場所の宝庫だ。これは探しがいがある。
押し入れを開けてみる。布団がびっしりと収まっていた。
と、とりあえず別の場所を探すか。押し入れを漁るのは手間だ。
だが無情、妹はそんな解りやすい場所にいるはずがなく。

「……うしっ、逝くぞ!」

壁から取り外したら電源が入る非常用懐中電灯を口にくわえ、覚悟を決めて布団の隙間に突っ込んでいく。

「うぎぎぎ、は、入れん!」

じたばたと暴れて奥へと侵入する。

「おーい、どこにいる!いたら返事をしろ!観念しろ!」

押し入れの背面、布団の裏側に回り込むもそこにいたのは蜘蛛一匹。

「うぎゃー!スパイダー!?」

慌ててバックして押し入れから脱出する。
俺と共に、布団がドサドサと畳に落ちた。
いかん、怒られる。自分で元通りに片付けようと怒られる。親ってそんなもんだ。
しかし今は妹を探すことが優先される。この惨状は後で元に戻すとしよう。

「しかしどうする?もう探しに回る時間はない……後一ヶ所だ、どこを探す?」

妹が隠れていそうな場所、それは……

妹の部屋を探す場合は28へ
和室を更に探す場合は25へ

【16】

妹の部屋に突入する。

「あ、ノックしてくれって言われてた……まあいいか」

例え妹の着替えに直面しようと、割とどうでもいい。ノックなんて生意気だ。
妹の部屋はピンク一色の頭痛を禁じ得ない異空間だ。各所には彼女の作り上げたクリーチャーが鎮座しており、俺が不審な行動を取れば躊躇いなく襲いかかってくるだろう。
嘘だ。部屋に住み着いているのはクリーチャーではなく、小さなぬいぐるみ達である。
これらは妹の作品だ。素人目には市販品とそう変わらないレベルなので、彼女は案外凄い奴なのかもしれない。

「さてさて、どこにいるのかなっと」

ベッドの布団を捲る。昨晩寝る前に読んでいたのだろう、漫画が転がっていた。

「まったく。小さな灯りで漫画を読んだら目を悪くするぞ」

手に取って軽く目を通す。どうやら少女漫画のようだ。

20へ

【17】

意を決して屋根裏へと登る。
やはり埃がひどく、深呼吸はしたくない環境だ。だがそれより問題なのは、光源がないこと。

「しくじった、真っ暗だぞっ」

想定してしかるべき問題だが、うっかりしていた。
どうする。戻るか?

「戻る……どこに?」

そも、入り口はどこだ?先程つい蓋を閉めてしまったが、これはひょっとして。

「くそっ!閉じ込められたか、妹め!」

とりあえず責任転嫁しておく。
屋根裏は床に梁があって歩きにくい上、這いつくばるしかないほど天井も低い。
ほうほうのていで脱出路を探すも、頭をぶつけたり釘の頭に引っ掛かれたりと散々な目に遭う。

「あーもう、アイツを探すってレベルじゃねーぞ!」

バシンと床を拳で叩く。
ミシミシとベニア板が裂け、地面に穴が開いた。

「なんてこったい」

俺の体重により天井が抜け、俺は二階の廊下へと落下する。
3メートルの高さからの落下、その割には怪我もなく無事生還。
ぽかーんと天井を、その大穴を見上げた。

「屋根裏も意外と未知の空間なんだな」

なんだか可笑しくなってきた。普段生活している場所の真上でも、知らないことは多いものだ。
込み上げる笑い。それを噛み締めていると、一階から物音と声が聞こえてきた。

「なにやってんだいアンタ!」

母さんの怒号と足音。
周囲を見渡せば、大量の木片と埃。
俺は無言で十字を切った。

14へ

【18】

一階を探すことにした。
一般に、水回りの設備は一階にレイアウトされることが多い。設置や保全費用が二階より安上がりだからだ。
この家も例に漏れず、キッチンや風呂場などが一階に用意されている。

「まあ、こんなベタな場所には隠れていないよな」

湯船の蓋を持ち上げるも、中には誰もいない。
脱衣所を見渡し、洗面所の下の棚を開けてみる。
買い置きのシャンプーや洗剤が詰め込まれている。これらを出せば妹なら入れる、と推理したのだが。

「いやいや、あいつの『普通じゃ辿り着けないような場所が大好き病』を舐めては駄目だ。奥の方にいるかもしれない」

手前の物を外に出して、棚の奥を探す。
結局いなかった。見付けたのは船の玩具だけ。

「懐かしい、こんなのあったっけ」

青と赤の二隻の船。
ゼンマイでスクリューが回る、お風呂用の玩具だ。妹と色違いで買ってもらったんだよな。

「ちょっと回してみるか……あれ?」

妹の赤い船はゼンマイが壊れているようだ。

「そうだ、俺が壊してしまったんだよな」

回転するスクリューをぶつけ合って「ガキン!ガキン!な、なに!?トルネードブレードアタックが効かないだと!?ギュギュイーン、ドカーン!」とかやってたら双方大破してしまったのだ。
親に怒られて妹に泣かれて、散々な出来事だった。
いや俺が悪いんだけどさ。

「あれからしばらく、馬車馬にされたんだよな」

機嫌が直らない妹にさすがの俺も気まずくなり、俺が壊れた船の代わりになると宣言してしまったのだ。
それから一週間ほど、妹は俺が寝ているといきなり馬乗りしてくるようになった。更にあっち行けこっち行けと文字通り馬車扱いされる始末。

「今でもたまに寝起きに乗っかっているけど、あれって当時の名残なんだろうか」

さて、どうやって俺は妹様の機嫌を直したんだっけな。
俺は次の場所を探すことにした。

キッチンを探す場合は10へ
廊下を探す場合は7へ

【19】

押し入れから出て自分の部屋を見に行く。

「な、なんじゃこりゃー!?」

部屋が荒らされていた。
床には機械の残骸。よく見てみれば、それは模型飛行機のようだった。
どうやら開いた窓から突入してきたらしい。窓が開いていて幸いだった、というべきか。
部屋を確認したら屋根裏に登るつもりだったが、もうそれどころではない。この後始末に取りかかろう。
俺はさっさと降参すべく、携帯電話を取り出した。

14へ

【20】

何かがひっくり返ったかのような物音に、俺は我に返った。

「はっ、つい読み耽ってしまった!?」

少女漫画など男の俺には興味ないと考えていたが、面白い漫画に男女の差はないようだ。
短編で良かった何巻にも渡って連載された長編だったら続きが気になって仕方がない。

「随分と時間を無駄にしたな、今の音はなんだ?」

近くから聞こえた気がするも、具体的な場所までは解らない。
兄が自分の部屋で少女漫画を読んでいれば、妹は怒って出てくるだろう。
結論。ここに妹はいない。

「となれば納戸……って気もしないんだよなぁ。この家で隠れられる場所といえば」

そうだ、あそこがあった。
人が潜むといえばやはりここだろう。この家にも一応あるはずだ。

「屋根裏!確か押し入れに屋根裏に登る為の蓋があったはず!」

俺の部屋の押し入れは物がぎゅうぎゅう詰めなので、上に登るのは難しいだろう。妹の部屋の押し入れを開く。

「あった。だが、登って大丈夫なのか?」

屋根裏といえば随分と埃っぽいことが予想される。一度登ってしまえば、降りて後始末するので時間制限が終了するだろう。
念の為に他の場所を見ておくか。そういえば、俺の部屋はノーチェックだ。

屋根裏に登る場合は17へ
自分の部屋を確認する場合は19へ

【21】

「あ、お兄ちゃん。見付かっちゃった」

「見付けちゃった、ってな」

そう、何度も繰り返すがこいつは『普通じゃ辿り着けないような場所が大好き病』なのだ。

「ほら、満足したか?」

「まあまあ」

なにが「まあまあ」だ。総当たりで探させやがって。

「お腹すいたー」

「さっさと出てこい」

ゲームクリアです。

【22】

地下室の入り口は普段は封印されている。
子供の頃は危ないから入るなと厳命されており、実は俺もこの下に何があるのかを詳しく知らない。
一応、キッチンで夕食の準備をする母さんにお伺いを立てる。

「母さん、地下室って入っていいの?」

「地下室?何の為に」

「アイツとかくれんぼをしているんだ」

いい歳してかくれんぼに付き合う俺に呆れた様子の母さんだが、俺だって面倒なのだ。

「地下は階段が腐っているからね。いないことを確認したらすぐ戻ってきなさい」

「りょーかい」

これが最初で最後の地下侵入になるかもしれないな。ちょっとした冒険気分だ。
扉を封印する荷物を避け、木製の階段をゆっくりと降りていく。

「湿気が多いな、これは腐るわ」

ギシギシと鳴る階段にびびりつつも、地下室へ降りる。そこはコンクリート壁の無機質な空間だった。
俺としては地下世界に繋がっていたり宝剣が封印されていたり白骨死体が転がっていたりを期待したのだが、生憎何もない。どうしてこんな空間を作ったんだ。

「妹はいない、な。それじゃあ戻るか……」

振り向いた瞬間、階段が崩壊した。
ジェンガが崩れるが如く、上から下まで総崩壊である。ビルを爆破解体する映像がこんな感じだった。
ふう、と気取った溜め息を吐く。
次に携帯電話を使う時は妹に降参する時。そう考えていたのだが、誤りだったようだ。

「母さんに救援要請をしなければ、家の電話番号は……」

携帯の電波は圏外だった。

14へ

【23】

納戸へやってきた。
身近な場所だが、滅多に入らないからか新鮮な気分だ。
適当な段ボールを開けると、昔使っていた算数ドリルが入っていた。

「この汚い字はアイツのだな」

捲ってみると、中の数字は意外にも綺麗。
って、違う。これは俺がやったんだ。
いつのことだったか、ドリルが解らないと涙目で部屋にやってきた妹。兄としての責務として仕方がなく教えてやったのだが、どうやら彼女にとっての数字は

「1、2、3、たくさーんっ」

で完結しているようだ。愉快である。
そんな妹だが、学校での成績は悪くない。むしろ優等生の部類だ。
本番に強いタイプなのか、裏技でも使っているのか。なんにせよご教授願いたいものだ。

26へ

【24】

「外に出てきたものの、どうしようか」

妹の活動範囲は広い。チャリに乗り初めてからは体力の限りペダルを漕ぎ、隣町まで行った末に力尽きて警察の世話になったことがある。
そうでなくとも俺が捜索に駆り出されたことは多々ある。他所の家で夕食を食べていたり、犬小屋を乗っ取って丸くなっていたり、乱暴者で知られるガキ大将を縄跳びで亀甲縛りしていたりと行動原理は無茶苦茶だ。
しかしながら、だからこそ妹捜索作戦の要領は弁えているつもりだ。町内の地図を脳裏に描き、俺は自転車に跨がる。

「もうケツかっちんだ、ちょっぱやで見付けんと分針が天辺越えるぞ!」

俺は力強くペダルを踏んだ。

2へ

【25】

この和室には、まだ隠れる場所があるのではないか。
時間的に猶予はない。集中しろ、どこかに空間があるはずだ。
箪笥、押し入れ以外の開く場所……いやそうではない。

『普通じゃ辿り着けないような場所が大好き病』。普通の方法では、行けないような場所。

「となれば、ここだ!」

バシンと畳を叩く。跳ね上がる畳。
畳の下から現れた板間には床下収納が。なぜこんな場所に収納があるかは知らないが、昔妹が偶然見付けたのだ。

「おらー!往生せいやー!」

蓋を開ける。

『ハズレ』

「…………。」

俺は、無言で妹の携帯電話を鳴らすことにした。

14へ

【26】

遅々として進まない捜索。どうやら俺は片付けをしている途中で手が止まってしまうタイプらしい。
面白い物を度々見付けてしまうのだ。昔のゲーム機とか。

「すげー、ファミリーで遊ぶコンピューターだ」

家にあったのか、これ。

「拳銃の形のコントローラ?この時代に?」

某イルカのコードネームを持つ据え置きゲーム機より前にも、画面に照準を合わせる技術があったとは。
片手で構え、声で銃声を再現する。

「Bang!ふっ、つまらぬ物を撃ち抜いてしまっ……」

がらがらがっしゃーん、と何かが壊れる音が聞こえた。

「……撃ち抜いてしまった?」

いつから俺は念力で銃弾を撃ち出せる特殊能力に目覚めたのか。
家の中から聞こえた音なのか?外で何かあったのかもしれない。
それ以前に、妹を早く探さなければ。

「二階のベランダに行ってみようかな」

ベランダは少し階段を登る必要がある、家で一番高い場所だ。
逆に一番低い場所といえば、……そういえばこの家には地下室があった。

ベランダへ向かう場合は11へ
天の邪鬼に地下へ向かう場合は22へ

【27】

洋室は普段生活することも多く、雑多に物が多い。
隠れる場所は多そうだ。探そうと思えば時間がかかる。

「どうする?ここを探せば、それだけでタイムリミットだ。本当にここを探していいのか?」

洋室を探す場合は6へ
洋室の窓の外、庭を探す場合は13へ

【28】

二階の妹の部屋。妹はいっちょ前に女のつもりなのか、俺に部屋に入られるのは嫌がる。
最近ではノックしただけでバタガタと慌てふためいた音がした後、顔だけ廊下に出す始末だ。反抗期だろうか。

「おじゃましまぁーす、言ったからな、俺ちゃんと断ったからなぁー?」

そおっと妹の部屋に入れば、そこは記憶通りのピンクでファンシーなルームだった。
物がごちゃごちゃしているが、埃っぽさはない。ただ、男の俺がここにいると変な気分になってきそうだ。
さっさと家捜ししよう。さっそく床に這い、ベッドの下を見る。
段ボール箱があった。

「……いや、そういうお約束は男限定だろ?」

言いつつも段ボールを引っ張り出し、中を開けてみる。
それは一冊の本と布切れ、そしてスプラッタ死体の人型であった。

「作りかけのぬいぐるみ?そしてこれは」

本を開いてみる。
アルバムだった。

「女ってどうして定期的にアルバム見たがるかねぇ」

パラパラと捲っていくとふと気付く。とある写真の俺と、ぬいぐるみの衣装が似た配色なのだ。

「このぬいぐるみ、ひょっとして……俺?」

見れば見るほど俺のイケメンだとしか思えない。間違いない、これは俺だ。
どういうことかと箱の中を更に漁ると、メッセージカードを掘り当てた。

『おにいちゃん 誕生日おめでとう』

「……なにアイツは恥ずかしいことを企んでいるんだ。まったく」

俺は携帯をポケットから出した。タイムリミットだ。
登録された妹の番号を選び、着信音を鳴らす。
彼女はしばらくは不機嫌になるかもしれない。だが仕方がない、後で色々とご機嫌取りをしてやろう。
どうせ、誕生日プレゼントを用意していることの誤魔化しだろうから。

14へ